多店舗展開経営 はなぜ難しいのか

多店舗展開経営 が難しいのは、ヒトモノカネ情報の全てが異なる方向を向きやすいから。
こんにちは。クリエイティブデザインラボの岩崎です。

当社公式Twitterでも以前ご紹介したニュース

 

これとは違う会社ですが、先日からTwitterを賑わせているとある事件

この料理屋は本部が謝罪を掲載しています

さて、一体何が原因でこんなことになってしまったのでしょう?
この二つの会社の持つ共通点は、「多店舗展開している」ということ。
特に後者はフランチャイズ(FC)展開もしていて、本部の手が非常に届きにくい展開もしていたと思われます。

飲食店に限らず、小売業であれば収益を上げるために目的とするところも少なくない、「多店舗展開」。ですがこれ、実はかなり難しい経営方法であるとも言えます。

何を隠そう、私が新卒で入った小売業の会社はまさにこの多店舗展開経営そのもの。
最高潮の時は直営300店舗以上を誇る、その業界ではちょっと名のしれた会社でした。
しかし、同時にその多店舗展開は中にいることで多くの綻びやリスク、不足や不満を肌で感じ、多くのことを勉強させてもらいました。
経営者となった今でも、当時のことは反面教師としてよく覚えています。

そんな私だから話せる、今回の多店舗展開経営 の難しさについて解説します。



多店舗展開経営 とは?

そもそも多店舗展開経営 とは何かですが、これはとても単純で、「この店の看板ここにもあるね」は多店舗展開です。
コンビニに限らず、ファミレスやアパレル、ホームセンターに至るまで「お店の名前+○○店」になっているとわかりやすいですね。
もしくはすかいらーくという会社に代表されるように、すかいらーく、バーミヤン、夢庵、jolly Pastaなど飲食だけども色々な業態で展開するのも多店舗展開経営 です。

このように、一つの会社が多くの店をコントロールすることを「チェーンストアオペレーション」と言います。

また、その会社直営だけでなく、店舗の名前を貸しロイヤリティを受け取るフランチャイズ展開などもあります。
これには親会社は店舗展開にコストをかける必要はなく、FC側はすでに名前が売れた店の看板を使えるので集客が見込めるというそれぞれにメリットがあります。
その代わり、直営店じゃないので本部の目が届きにくく、問題を起こしやすくなるというリスクも抱えています。

多店舗展開経営 はある意味経営者の夢ですが、それがうまくいくかどうかは、どれだけしっかりとした仕組みを作れるのかどうかにかかっています。
そして、それがうまくいかないと今回のような問題が起きます。



多店舗展開経営 で徹底しなければいけないこと

多店舗展開経営 はうまくいっているところとそうでないところがあります。
この“うまくいく”の定義は人それぞれですが、ここでは店舗単位で社会的批判を生む問題が起きにくい店としましょう。

今回の前述2店舗の問題は、間違いなく店舗単位で社会的批判を受けています。なぜ問題が発生したのかというと、その根源には「店舗の勝手な行動」があります。
多店舗展開経営 の場合は特にこの勝手な行動というのが絶対にNG。というのも、同じお店のA店とB店で異なるサービスをするわけにはいきません。全てが足並みを揃える必要があります。つまり、会社内のルールを徹底して遵守するということが求められます。
今回のお店の問題は、
・期限の定めがよくわからない状態で、ビール半額ポスターを掲示した
・衛生管理の状態があまりにも杜撰だった
ということですが、これは表出した問題にすぎません。
最大の問題は、これらを管理する体制が非常に不十分であり、徹底ができていなかったことと、それを実行できる人材がいなかったことです。

多店舗展開経営 ではルールの徹底が絶対条件です。そして、その絶対条件を現実のもとするには、それを徹底できる人材が必要です。
そして多店舗展開経営 をする会社にとって絶望的に難しいのが、こういった人材を育てることなのです。

多店舗展開経営 と優秀な人材のアンマッチ

多店舗展開経営 するから優秀な人材がいない、という訳ではありません。実際に多店舗展開経営 する会社の中でも非常に優秀なマネージャーという方に多くお会いしてきました。
しかし、ある共通点を持つ会社は多店舗展開経営 の中で上層部ほど優秀な人材がいない、というケースが多くあります。
私の新卒入社の会社もそうでしたが、慢性的な正社員不足で「キャリア問わず正社員なら店長」みたいな会社は総じて優秀な方がいません。

というのも、多店舗展開経営 の理想からすると、その体制がすでに不自然なのです。優秀な方はその不自然から自分の力が搾取されていると早い段階で気づき、離脱します。また、多店舗展開経営 で必要なことはルールの徹底だと前段でお話ししましたが、そう言った会社はこれを「会社や上司の命令を機械のように遂行する」と誤った解釈をしているため、改善意識の高い優秀な人間には居心地が悪く、会社に依存し能動的な思考を持って仕事をしない人が居心地の良い会社になります。
結果として、自発的な行動を起こさない人だけが残る会社が多くあります。

会社に依存する人ならルールの徹底も容易いじゃないかと感じるかもしれません。
ですが、ここに落とし穴があります。
そもそもこう言った会社は慢性的な人手不足ですから、会社のルールを十分に熟知しないまま店舗責任者にしてしまいます。店長とはいえルールを知らなければミスを犯します。
優秀な方は、ここでおかしいと気づいて抜けますが、そうでない方は残り続けます。会社に改善案を出す訳でもなく、会社から言われたことを淡々と遂行する。そうすると会社は「問題を起こさない人材」という理想の(都合のいい)人材として時間と共に昇進させます。
そんな人が今度はエリアをまとめます。
言葉を選ばずにいえば、無能が昇進して無能をマネジメントするわけです。
これで現場の状況が良くなるわけがありません。
多店舗展開経営 をしている多くの店で、おそらく起きている問題が「そもそも人手不足だし、優秀な人材はさらにいない」ということが慢性的であることではないかと思います。



多店舗展開経営 で人材は育つのか

では、多店舗展開経営 では優秀な人材はそもそも育たないのかと思われるかもしれません。
結論から言えば育ちます。
違う言い方をすると、経営者の人件費の考え方と、人材が育ちやすい仕組みと、働きやすい環境が理想的にマッチすると育ちます。

どんな環境でもどんな会社でも一定数離職者は出ますから、離職者を0にすることは不可能です。しかし、やり方次第でそれを減らすことはできます。
ちょっと考えてみましょう。お店が問題を起こすのはルールの徹底ができていないからです。そしてその原因は徹底させることのできる人材がいないからです。
であれば、徹底できる人材を育てればいいのです。

これは理想論かもしれませんが、そもそも店長と言われる人には、ルールが徹底できるだけの教育を受け、それをお店の人間に周知することのできるマネジメント能力が求められます。仮にそう言った人がいて、その下に社員と言われる人たちがいて、その店長から徹底して教育を受ける。
そして店長職が名誉的で憧れを抱くような職位であれば絶対にうまくいくでしょう。
これは中規模以上のホームセンターなどがこの手法を取り入れています。ホームセンターの店長は言ってしまえば小規模な中小企業の社長レベルのお金の管理と運営判断を任されます。
逆に、ここまでしないと本来経営者が理想とする多店舗展開経営 は不可能でしょう。
頭の悪い経営陣は「エリアマネージャーがしっかりしていればいい」などと言いますが、普段お店にいない人間がその店舗を視察に入ったところで残念ながらゲスト枠。見つけられる問題点は限定的でしょう。
普段からお店にいる人がどれだけルールを徹底することができるのか
これが多店舗展開経営 の成功の秘訣の一つでしょう。



多店舗展開経営 実際に肌で感じたこと

少し厳し言い方になりますが、私が入社した会社はちょうどその時が絶好調で2ヶ月に1度はどこかに新規出店しているような会社でピーク時には300店舗以上ありました。
しかし急成長には必ず歪みがきます。それがこの会社の場合、人材不足でした。

というのも私の同期もそうでしたが、優秀な人材はたくさんいました。少なくとも私は下から数えたほうが早い序列でしょう。
しかし残念なことに、その優秀な同期を使いこなせる優秀なマネージャーはほぼいなかった。幸い、本社近くにいた私の、直属の上司は相応に優秀な方でしたが、少し地方に目をやると惨憺たるものでした。
上層部がイエスマンばかりなので、エリア長も必然的に現場よりも上席の人をみます。現場では優秀な人間が見切りをつけてさっさと抜けていきますから、無能しかのこらない。この無能な店長を優秀なアルバイトが支ている、なんてこともありました。

つまり、入社時から教育を行い、会社を成長させるのに必要な人材へと育てることができれば、優秀な人材のストックができます。人材育成計画と出店計画をうまく調整してお店を作らなければ、無能な人間ばかりになり、結果として自分達の首を絞めることになるのです。

人材を軽く考え、人件費を必要以上に抑え込む。社会保険を嫌い、アルバイトを増やす。
結果として、仕事に対して強い関心を持つ人材は減り、有能な人間は去っていきます。それは離職率の低下となって強い影響を及ぼし、優秀な人材が育たない→人が定着しない→とりあえず人を入れる→無能ばかりになる→優秀な人材が育たない・・・という最悪のループを作り出します。そしてこれは、一度ハマると抜け出せません。
改善するだけの余剰人員がいないために何も行動に起こせないし、経営陣から見れば現場は回っているように見えるので改善も浮かばないのです。



多店舗展開経営 を成功させる秘訣

さて、ずいぶん寄り道をしたので終わりに向けて元に戻します。
これまでたくさん書いてきたように、多店舗展開経営 というのは実に難しい。もちろん、優秀なサービスが1店舗でも多くあることは消費者にとって望ましいし、それが身近な街にあるなら尚更です。

これまで有名な会社で社会的に大きな問題を起こさずにやってこれた多店舗展開経営 の会社というのはほぼありません。何かしらの問題を起こし、火消しに躍起になっています。
そのほとんどが、現場のスタンドプレイ、ルールの不徹底です。そしてその原因は当然そこにいる「人」に起因します。
つまり、多店舗展開経営 を成功させるには、そこに求められる能力を持った人を育成するしかありません。
もしくは、意志を持たない人材を作り上げるしかありません。どちらも中途半端ではダメ。厳しい基準を設けて、「人材がいるから出店する」くらいの慎重さが求められるでしょう。
もしくは社命徹底服従の人材を作り支配型経営をするかです。

しかし、前者は人の教育と出店とキャッシュフローのタイミングは全て異なります。後者はこのご時世、ブラックと言われて会社自体が終わりかねない。

つまりは徹底したマネジメントを持って人を育て、指示するしかない、ということです。



多店舗展開経営 は難しい

多くの経営者が夢見る業態ですから、当然その道のりは単純ではありません。
大規模店舗や日本を代表するスーパーマーケットなどであれば、それぞれが一つの会社として機能するようなものですから、相応の手法があります。

しかし、今回のテーマに挙げたポスター掲示の問題だったり、衛生管理不行き届きだったりは、根本的な人材育成と運営の仕組みの問題なので、簡単には改善しないのです。やるなら、目の届く店舗数まで潰し、そこに正社員を集めて教育を徹底する、などが求められます。
人がそこで働く以上、みんなが全く同じ方向を向くのは不可能です。
しかし、仕組みや理念、マネジメントで「概ね同じ方向を向く」ことはできます。
それができなければ、またどこかで今回のような問題が起きるでしょう。

なんにせよ、より多くの地方でそのお店の名前が知られている、ということは存在感の誇示として最強の方法です。
であれば、せっかくそこまで広げた店の名を汚さぬよう、それにふさわしい、その会社の理念を本当に理解(共感は不要)してくれる人材を集め、育て、優秀な人材が働きやすいと思える環境を整えること。
経営者に課せられた使命は、まさにこれだと思います。





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